東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1924号 判決
裁判所書記官
浅野正久
(一)
本店所在地 東京都世田谷区北沢二丁目三番一二号
友和興業株式会社
(右代表者代表取締役佐藤好雄)
(二)
本籍 秋田県由利郡鳥海町上川内字伏見沢九一番地
住居
東京都世田谷区北沢二丁目三番一二号
会社役員
佐藤友康こと
佐藤好雄
昭和七年九月四日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
1 被告人友和興業株式会社を罰金二、〇〇〇万円に、被告人佐藤好雄を懲役一年二月にそれぞれ処する。
2 被告人佐藤好雄に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人友和興業株式会社(以下「被告会社」という。)は、頭書本店所在地に本店を置き、不動産の売買及び仲介業等を目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人佐藤好雄は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人佐藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、仕入を水増し計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が、一、三八九万二、五〇五円(別紙(一)修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が三、〇八二万九、〇〇〇円あったのにかかわらず、同年五月三一日、東京都世田谷区松原六丁目一三番一〇号所在の所轄北沢税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が九七二万二、三七二円、土地譲渡利益金額が八二七万九、〇〇〇円でこれらに対する法人税額が一四五万七、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一〇九一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一、〇六八万四、〇〇〇円と右申告税額との差額九二二万六、八〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ、
第二 同五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六、五三三万二、三七二円(別紙(二)修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が六、九九五万九、〇〇〇円あったのにかかわらず、同年五月三〇日、前記北沢税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、六八八万九、四四六円、土地譲渡利益金額が零でこれらに対する法人税額が一、三一九万九、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七、八五四万四、七〇〇円と右申告税額との差額六、五三四万五、四〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全般につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書三通
一 東京法務局世田谷出張所登記官作成の登記簿謄本
判示第一、第二の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき
一 押収してある昭和五四年三月期及び同五五年三月期法人税の確定申告書二袋(昭和五七年押第一〇九一号の1、2)
判示第一、第二の事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき
一 収税官吏作成の売上高調査書(別紙(一)、(二)修正損益計算書の勘定科目中各〈1〉、以下調査書はいずれも収税官吏が作成したものである)
一 受取仲介手数料調査書(右同(二)の〈3〉)
一 期首商品たな卸高調査書(右同(二)の〈7〉)
一 当期商品仕入高調査書(右同(一)の〈6〉、〈21〉)
一 当期仕入高調査書(右同(二)の〈8〉)
一 期末商品たな卸高調査書二通(右同(二)の〈9〉)
一 支払手数料調査書(右同(一)の〈21〉及び(二)の〈24〉)
一 租税公課調査書(右同(二)の〈26〉)
一 雑費調査書(右同(一)の〈26〉)
一 受取利息調査書(右同(一)の〈27〉及び(二)の〈30〉)
一 雑収入調査書(右同(一)の〈29〉及び(二)の〈31〉)
一 支払利息調査書(右同(二)の〈32〉)
一 欠損金の当期控除額調査書(右同(二)の〈37〉)
一 過払源泉税調査書(右同(一)の〈46〉及び(二)の〈38〉)
一 未納事業税認定損調査書(右同(二)の〈39〉)
一 北沢税務署長作成の証明書(右同(二)の〈37〉)
判示第一、第二の事実ことに別紙(三)税額計算書の土地譲渡利益金につき
一 土地譲渡税額調査書
(法令の適用)
一、罰条
(一) 被告会社
判示各事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条
(二) 被告人佐藤
判示各事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条、裁判時において改正後の法人税法一五九条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)
二、刑種の選択
被告人佐藤につきいずれも懲役刑選択
三、併合罪の処理
(一) 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
(二) 被告人佐藤
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
四、刑の執行猶予
被告人佐藤につき、刑法二五条一項
(量刑の事情)
被告人らの本件犯行は、判示のとおり、不動産の売買及び仲介業等を目的とする被告会社において、その代表取締役である被告人佐藤が、右被告会社の業務に関し、二事業年度にわたり合計約七、四〇〇万円の法人税を免れたという事案であって、ほ脱額は高額であり、他方申告率は一三・六パーセント(昭和五四年三月期)あるいは一六・八パーセント(同五五年三月期)とかなり低い。被告人佐藤は、本件犯行の動機として、不動産売買では土地譲渡益重課制度により儲けの大半が税金として徴収されるうえ、不動産業は好・不況の波があるので、不況の時に備えて資産を蓄積しておく必要があり、また、昭和五七年には一億二、〇〇〇万円の予算で自宅を新築する予定であったことからその資金準備のために本件犯行に及んだと述べているが、脱税により資産を蓄積することが許されないことは多言を要しないところであって、本件犯行の動機において特に斟酌すべき事情も認められない。また、犯行の態様をみても、被告人佐藤は、不動産の売却に際し、買主と相謀り、売買代金を圧縮した売買契約書を作成するなどして売上代金を除外し、あるいは売上代金の一部を翌期に繰り延べるなどして当期の利益を調節し、不動産の購入についても、売主と通謀し、売主と買主である被告会社との間に他の業者を介在させた仮装の売買契約書を作成して購入代金を水増計上するなど悪質、巧妙な手段によって所得を隠ぺいしたものであり、このようにして得た簿外資金を簿外経費の支払や知人に対する貸付資金に充てるなどしたほか、仮名・無記名預金等にして秘匿していたものであって、その刑事責任は重いといわざるを得ない。
しかしながら、他方において、被告人佐藤は捜査及び当公判廷を通じて犯行をすべて認め、今後再び犯行に及ばない旨誓約していること、本件に関し、被告会社において、修正申告をしたうえ、本税、重加算税等の国税のほか地方税もすでに納付済であること、被告人らには今まで前科前歴が全くないこと等被告人らに有利な事情が認められるので、これらの情状をも総合考慮し、主文のとおり量刑した(求刑被告会社につき罰金二、五〇〇万円、被告人佐藤につき懲役一年二月)。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穗)
別紙(一) 修正損益計算書
友和興業株式会社
自 昭和53年4月1日
至 昭和54年3月31日
〈省略〉
〈省略〉
別紙(二) 修正損益計算書
友和興業株式会社
自 昭和54年4月1日
至 昭和55年3月31日
〈省略〉
別紙(三) 税額計算書
友和興業株式会社
〈省略〉